事実が見れない経営者 ―「降ってきた後継者」と「掴みに行った後継者」

事業承継の現場にいると、「約束を守れない後継者」に何度も出会います。けれど、長く見てきて分かったのは、本質は「守れない」ではないということです。
自分の現在地が分からないから、約束ができない。
これが正確な言い方だと思っています。
後継者には二つのタイプがある
私は後継者を、大きく二つに分けて見ています。
ひとつは、役割が降ってきた後継者。「お前が継げ」と言われ、家業がそこにあったから、流れの中で席に座った人です。
もうひとつは、自ら掴みに行った後継者。先代がつくった現在を徹底的に分析し、否定すべきところは否定し、「自分がやらなければならない」と腹をくくって席を取りに行った人です。
うまくいく理念経営も、強い会社も、ほとんどがこの「掴みに行った」側から生まれます。差はあまりに大きい。
「降ってきた後継者」に起こりがちなこと
降ってきた後継者には、いくつか共通する兆候があります。
まず、自分のエピソードがないこと。自己葛藤を言葉にして、誰かを傷つけたり味方にしたりした経験の蓄積——それが乏しく、話がどこまでも抽象的になります。「祖父がつくったものを祖父に褒められた」で止まっていて、その先の自分の物語が出てこない。
次に、自分の挙動が周囲に見られていることに気づいていないこと。そして、人の意見を取り入れること自体が自分の仕事だと自覚できていないこと。
最後に、何かあると被害妄想の側に逃げること。事実ではなく、解釈とバイアスで世界を見てしまう。
「事実が見れない」とは、現在地を失っている状態
これらの根っこにあるのが「事実が見れない」という状態です。
人は、自分がいま立っている場所が分からないと、約束ができません。半年後にどこへ行くと言えるのは、いまどこにいるかが分かっているからです。現在地が霧の中にあると、言葉だけが宙に浮き、約束が守られないように「見える」のです。
私は最近、ある人とのちょっとした相談や雑談の中で、自分が物事のアンチテーゼ(反対側)に立ってしまう理由に気づきました。成り立ちを知らないからです。成り立ちを理解できていないと、目の前の現状を都合よく肯定するか、根拠なく否定するかのどちらかに振れてしまう。事実が見れない経営者も、おそらく同じ構造の中にいます。
あなたは、掴みに行ったか
だからこそ、当事者にも、後継者を選ぶ先代にも、問いたいのです。
- あなた(の後継者)は、役割を掴みに行きましたか。それとも、降ってきましたか。
- 語れる「自分のエピソード」を持っていますか。
- いま、自分の現在地を事実として言えますか。
この問いに詰まるなら、まず取り組むべきは事業計画ではなく、現在地の把握です。
では、その先にある「理念」は誰がつくるべきなのか。これについては別記事で書く予定です。
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